スルメイカに着く寄生虫の話

東京湾口で冬場に釣れる大型スルメイカには寄生虫が多く見られます。春から初夏に釣れるムギイカ、ニセイカにはほとんど見られないのですが、それはなぜでしょう?

スルメに多いニベリニアやアニサキスと言った寄生虫は、クジラやイルカなどの海産哺乳類やサメ類の体内で成虫になるようです。寄生虫がクジラなどの体内で産卵すると、糞とともに卵が海中に飛散します。それをオキアミなどの小型動物が捕食して感染、それを魚類やイカ類が捕食して感染、さらにそれをクジラなどが捕食して感染・・・というような一連の食物連鎖の中で、宿主を替えながら成長、繁殖します。寄生虫の立場からすると、最終宿主に食べてもらわない限り、成虫にもなれないし、繁殖もできないというわけです。

スルメイカの生態がどこまで解明されているかは知りませんが、説によると系群が数種類あると見られ、中でも冬〜春先に東シナ海で生まれた群れが黒潮に乗って太平洋側を北上、東京湾口で春から初夏に釣れるムギイカ、ニセイカはこの系群と見られます。この群れは季節とともに北へと回遊し、北洋で寄生虫に感染したオキアミや魚類などを捕食してしまうことが主な感染原因と見られています。冬場に東京湾口で釣れる大型スルメイカは、北洋で寄生虫に感染した後、南下してきた群れであるというのが通説のようです。

2009年1月、2月に釣ったスルメイカの感染率はほぼ100%、干物など火を通して食する場合には、さほど気にしなくてもよいのかもしれませんが、気持ちの良いものではありませんので、頑張って除去しましたが、完全には取りきれなかったかもしれません。多いのは冒頭で挙げた2種類で、ニベリニアは目立つのですぐ分かるのですが、問題はアニサキス。こいつは生きたまま食べてしまうと、胃壁に噛み付いて激しい腹痛と嘔吐に見舞われることがあるそうで、そうなったら内視鏡で除去しなければならず、入院沙汰になることも多いので要注意です。



写真のやや黄色味掛かった米粒大の物体がニベリニア(Nybelinia surmenicola(ニベリン条虫))です。よく見られるのはイカの身の外側と内側、内臓の表面など。楕円形のどちらかが頭のようで、しっかり食い付いていて爪でしごいても簡単には取れませんが、特に動くこともありません。イカ1杯当たり4、5匹見られる場合がありました。人間に寄生することは無く、食しても特に害は無いようです。まれに人間の喉に引っかかる事例があるそうで、そうなったらピンセットですぐに取れるらしいですが、まぁ寄生虫の居るスルメを生で食べるってこともないでしょうからね。(笑)



アニサキス(Anisakis simplex(アニサキス・シンプレックス))は、イカの胴を開いてゲソと内臓を外すと、身の内側に丸まっているものを発見することもありますが、身の中に入り込んでいることも多いようです。分かり易いのは、身が0.5〜1cm程度、白濁して明らかに色が変な部分があります。そこに包丁の先を刺して掻き取ると、ほぼ100%の確率で出てきます。イカ1杯から多量に発見した経験はありませんが、6、7匹程度は見つかることがあります。前述のようなアニサキス症の原因となり、加熱調理するか、マイナス20度以下で24時間以上冷凍すると死滅するそうです。



色と大きさがニベリニアと似ているのですが、米粒と言うより円錐形をしており、片側が尖った虫?ニベリニアのように食い付いて固着しておらず、身の内側に普通に居る寄生虫らしきものをたまに見かけますが名前が分かりません。それと、前回釣れたスルメからは、アニサキスに似てますが、糸状で丸くならないシュードテラノーバらしきものも発見したことがありますが、正確には確認しませんでした。これも生で食べるとアニサキスと同様の症状を起こす場合があるそうですので要注意です。

アニサキスがヤリ、アオリ、スミに着いていた話はまず聞いたことがありませんが、マルイカは居ることがあるような話を聞きましたので、生食される際は念のため気を付けた方がよいかもしれません。他、東京湾でアニサキスが見られるのはサバですね。ゴマサバには居ないという説がありますが、私が釣ったゴマサバには着いていたことがあります。オキアミが媒介になって感染するとう話ですが、普段釣りで使っているオキアミブロックはマイナス60度で冷凍されたものですから、餌着けた手でおにぎり食べても感染の心配は無いでしょう。(笑)

最後に、スルメの口の周りのオタマジャクシ状の物体は、触ると動くので寄生虫だと思われがちですが、あれは精莢(せいきょう)と言い、雄が雌に刺して受精させるためのいわゆる生殖器に相当する物です。生で食べるとトゲが口に刺さって痛みを覚えることがあるそうですが、まさかアレを生では!?(笑)カラストンビは精莢が着いている故、気持ち悪く感じる方も多いかと思われますが、精莢の着いている皮を切り取り、硬いクチバシも除去し、筋肉の部分のみを串刺しの干物にして、炙って食べるとバカウマですよ!

最後は話が脱線してしまいましたが、スルメイカは時期によってはこんな状態ですので、生で食べるのはよく確認してからにするか、怪しい場合は控えた方がよいでしょう。

【参考サイト】
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
水産食品の寄生虫検索データベース(D−PAF)


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