和竿製作日誌 - 2003年第3期 Vol.5

9月12日(金)ガイド/リールシート取り付け−1
(1)ガイドの足擦り

胴に装着するYSGガイドの足の先端を平ヤスリで削って傾斜をなだらかにし、糸巻きの際に糸の乗りが良いように加工します。

(2)ガイドの取り付け
ガイドの位置を決めたら紙テープで仮止めし、50番の絹糸で巻いて固定します。1本に付き2箇所なので4本分で都合8箇所の取り付けを行います。カワハギ竿やヘチ竿に比べてガイドの個数が少なく、また片足ガイドなのでだいぶ作業は楽です。


左:ガイドの足擦り、右:ガイドを糸で巻いて取り付け。

(3)リールシートの取り付け
次にリールシートを取り付けます。ペンシルホールドでシェイキングを多用する釣り方を行うと、普通に糸を巻いただけのリールシートの固定方法ではギチギチいってしまったり、何回も釣行を重ねるうちにリールシートが緩んできたりする場合があります。従って、これも普通は行わない方法だと思われますが、リールシートと竹を隙間無く密着させるためにエポキシパテで接着します。木工用の30分硬化型のエポキシパテをリールシートの糸巻き部の裏側に適量付け、竹に圧着させて隙間が無いように固定します。はみ出たパテは取り去り、硬化するまで紙テープで固定します。


左:ガイドの取り付けが終了しました、右:パテが硬化するまで紙テープで固定。

9月14日(日)ガイド/リールシート取り付け−2
(1)リールシートの取り付け(続き)

リールシートの接着が硬化したら、パテの凸凹を切り出し刀や紙ヤスリを使用して削り、糸を巻いた時に平らになるよう調整します。次にガイドの取り付けと同じようにリールシートの足に絹糸を巻いて行きます。リールシートは既に接着されていますので、どの部分から巻き始めても構いません。絹糸はかなりテンションを掛けて巻いていきますが、竹を回すときに力が入りにくいので、挿げ口に不要な竹を差し込んで持つ部分を確保します。また片方を胸の中心の凹んだ所に固定して、竹を回しながら糸が重なることが無いように巻き進めていきます。


左:リールシートの糸巻き中、右:すべてのリールシートの取り付けが終わりました。

(2)糸極め
ガイドとリールシートの取り付けで糸を巻いた部分を生漆で固めます。瀬〆漆を片脳油(へんのうゆ)で半々程度に薄め、糸巻き部に十分染み込ませます。これも私独自の方法かもしれませんが、ガイドとリールシートの糸極めは、極め木(きめぎ)を使用せず拭き取りも行いません。糸巻き部に漆を十分染み込ませたら室で乾燥させますが、このときガイドやリールシートを下向きに置きます。ガイドの取り付けは糸を巻いただけですので、金具と糸の隙間に漆が溜まりながら乾燥することで、より固定力が高まると考えています。


糸極めが終わって室で乾燥させます。

9月15日(月)ガイド/リールシート取り付け−3
(1)瀬〆漆塗り

糸極めが完全に乾きましたので、塗り重ねに入ります。以前行った口塗りやガイド下の塗り重ねと同じ要領で、1回目は瀬〆漆を塗り、2回目以降は呂色漆を塗り重ねます。但し、最後の上塗りは呂色漆でも構いませんが、全体のデザインを意識して色漆を使用することが多くなります。今回のガイドとリールシート部の糸極めでは漆の拭き取りを行っていません。このため糸巻き面の凸凹が大きいので、瀬〆漆は比較的厚めに塗りますが、やはり漆の付け過ぎは禁物です。塗り終わったら室で最低1日乾かしてから呂色漆塗りに進みます。

9月17日(水)ガイド/リールシート取り付け−4
(1)呂色漆塗り1回目

瀬〆漆が乾燥しました。このまま研がずに呂色漆を塗り重ねます。糸巻きの際は1mm程度竹側に漆を被せ、完全に巻いた糸を覆うように塗ります。竹を左手で持ち平筆を右手で持ちますが、このとき右手の一部(手首と手のひらの間くらい)を竹に付けて筆がぶれないように固定し、左手で竹を回しながら塗ります。もし漆が必要以上にはみ出てしまったら、ウェスや面棒を使用して跡が残らないようにきれいに拭き取ります。この後、糸目が消えるまで水研ぎと呂色漆塗りを3回くらい繰り返していきます。この状態で握りと胴を接着すれば実用に耐える竿にはなりますが、ここからさらに完全な仕上げに向けて地味な作業を続けていきます。


左:ガイドの糸巻き部を塗り中、右:1回目の呂色漆を塗り終わりました。

9月18日(木)ガイド/リールシート取り付け−5
(1)呂色漆研ぎ1回目

1回目の呂色漆を800番の耐水ペーパーで水研ぎします。これも口塗りやガイド下の塗りと同じ要領で行います。1回目の研ぎでは塗面の凹凸はまだ平らにはなりません。無理して研ぎ過ぎると糸まで研いでしまいますので、塗面の凸状態を均す程度に留めます。横方向に研ぎ、絶対に塗り際から胴塗りにペーパーが当たらないように注意します。

(2)呂色漆塗り2回目
2回目の呂色漆を塗ります。漆の量は少なすぎず多すぎずで1回目と同じように竹を回転させながら伸ばしていきます。2回目以降の塗りでも糸巻きの際は1mm程度竹側に漆を被せるようにして、前回の塗りに完全に重ねるようにします。これにより糸巻き際の段差が滑らかになります。


左:1回目を研いだ後です、右:2回目の呂色漆を塗りました。あまり変り映えのしない写真になってしまいました。

9月19日(金)ガイド/リールシート取り付け−6
(1)呂色漆研ぎ2回目

2回目の呂色漆を800番の耐水ペーパーで水研ぎします。普通に指だけで研ぐと出っ張った部分だけ研ぎ過ぎてしまったり、逆に窪んだ部分が研げなかったりしますので、私の場合は版画用のゴム板を適当な大きさに切り、耐水ペーパーに当てて使用します。2回目の研ぎでも糸目はまだ消えません。後2回くらいは塗りと研ぎを繰り返します。


左:版画用のゴム板、右:当てゴムを使って水研ぎを行います。

(2)呂色漆塗り3回目
3回目の呂色漆を塗りました。


左:2回目の研ぎ後、右:3回目の呂色漆後、相変らず変り映えのしない写真ですみません。塗面の光り方で糸目が消えてきたのが分かります。だいぶ厚みが付いてきました。

9月21日(日)ガイド/リールシート取り付け−7
(1)呂色漆研ぎ3回目

3回目の呂色漆を800番の耐水ペーパーで水研ぎします。穂先はだいぶ前に呂色漆を2回塗ったままになってます。4回目の塗りから穂先のガイド部分も一緒に塗り進めますので、次の塗りに備えて穂先のガイドの部分も研いでおきます。穂先も当てゴムを使って研ぎますが、凸凹やブツブツを取る程度の甘い研ぎ方で構いません。穂先の螺旋巻きの部分は研いではいけません。


左:3回目を研いだ後です。呂色漆の縁が光っていますが、これは竹側に塗り被せた部分です。右:穂先のガイド部分を研ぎます。

9月23日(火)ガイド/リールシート取り付け−8
(1)呂色漆塗り4回目

4回目は穂先のガイド部分から塗り進めます。穂先は塗る面積が狭いのでちょっと漆を付けただけでも思った以上に厚くなり、乾燥後にしわになったり縮れたりしやすいので少量を伸ばすように塗ります。また穂先のガイド部分はわざと上下にはみ出すように塗り、糸の段差が少なくなるようにします。先端を塗る際は両手を机に固定し、中間部は小指か薬指を竿の塗らない箇所に付けて固定しながら、筆を動かすというよりも竿を回転させるようにして塗ります。塗り全般に言えることですが、竿と手の固定、そして竿の回転が上手く塗るコツになります。これが乾燥したら再び水研ぎを行い色漆で仕上げていこうと思います。


細かい部分を上手く塗るには手と竿の固定が重要です。

9月25日(木)ガイド/リールシート取り付け−9
(1)呂色漆研ぎ4回目

4回目の呂色漆を水研ぎしました。いよいよ次は仕上げ塗り、色漆を塗ってガイド、リールシート部の塗りが終了となります。これが終わると飾り塗りに入ります。挿げ口際の帯塗り、芽打ち2回、ふくりん(細い線引き)を行って、すべての塗りが完了します。毎日時間が取れれば9月中に終わりますが、たぶん無理なので10月上旬には完成の見込みとなります。

9月27日(土)ガイド/リールシート取り付け−10
(1)上塗り

ガイドとリールシートの糸巻き部に色漆を塗って仕上げていきます。今回は作り置きしてあった緑漆を使用します。色漆を塗った後は研がずに塗りっ放しの状態で仕上げとなります。色漆は色粉と木地呂漆を半々程度の割合で練り合わせてあるので、非常に硬く伸びが悪いため刷毛目が残りやすいのですが、最大限刷毛目を残さないように何回も何回も刷毛で均して塗ります。今回が仕上げの塗りですので、後で行うふくりん(際に引く細い線)がきれいに引けるように考慮し、際は特に注意して真っ直ぐに丁寧に極めます。


左:作り置きしてあった緑漆、右:上塗りが終わって乾燥させます。

9月29日(月)飾り塗り−1
(1)縁塗り

変り塗りを施した箇所の縁(ふち)を帯状に塗ります。ガイドやリールシートの取り付けを緑漆で仕上げましたので、今回は縁(ふち)を同系色で決めたいと思います。(理由はありません、何となく気分です。)呂色漆に緑の色粉を、色漆を作るときより少なめに混ぜて練り合わせ、濾し紙でろ過します。これを蒔絵や人形の塗りなどに使用する面相筆を使用して5mmくらいの帯になるように塗ります。呂色漆に紅柄(べんがら)を混ぜた漆を「うるみ漆」と呼びますが、緑を混ぜた場合は何て呼ぶのでしょうか。この漆が乾燥すると緑掛かった黒になる予定です。


左:面相筆で帯状に塗ります、右:縁塗りが終わり乾燥させます。

9月30日(火)飾り塗り−2
(1)ふくりん引き

塗り際に引く細い線のことを「ふくりん」と言います。穂先から手元までのすべての塗り際にふくりんを引いていきます。色は特に決まっているわけではありませんが、私の場合は見栄えの面で仕上がりがカッチリした感じに見える白色を多用します。今回も白い線を引いてみようと思います。
梨地漆にチタニウムホワイトを練り合わせ白漆を作ります。このとき普通に色漆を作るのと同じように、漆と色粉を半々まで混ぜてしまうと、漆の伸びが悪くなり線がきれいに引けません。このため色粉は若干少なめにして、漆の伸びが失われない程度の割合で練り上げることが、作業時間も短縮され上手く引くには重要なポイントになります。乾燥すると薄茶色に変化しますが、月日が経って漆が透けてくるに従い、段々鮮やかな白色に変っていきます。漆は月日の経過で色合いが変化しますので、これも本漆の味わい深い一面です。
ふくりん筆は自作します。割り箸を下の写真のように鉛筆のような形状に削り、毛足の長い絵具筆の毛を3〜5本、瞬間接着剤で先端に接着します。これで筆の出来上がりです。ふくりんはネズミの髭で引くのが最高と言われていますが、ネズミを捕まえてこないと手に入るものではありません。子供の髪の毛なども柔らかくて真っ直ぐの毛であれば利用することができます。
適量の白漆を筆に馴染ませたら、線を引く箇所に当てて毛を張り付かせて引っ張るような方法で、一周を始点と終点がきれいに繋がるように気を配りながら引いていきます。失敗したらウェスで拭き取ってやり直します。竿1本につき50本以上のふくりんを引きますので、この作業は数日を要します。


左:白漆を練る、右:割り箸を削った自作ふくりん筆。


左:ふくりんを1本々々丁寧に引いていきます、右:手元4本のふくりん引きが終了。

10月2日(木)飾り塗り−3
(1)ふくりん引き(続き)

ふくりん引きがすべて終了しました。


白いふくりんは乾くと薄茶色に変わります。月日が経つと漆が透けて段々鮮やかな白色になります。

10月6日(月)飾り塗り−4
(1)芽打ち1回目

4日ぶりの竿製作ですが、続いて1回目の芽打ちを行います。芽打ちは竹の枝が生えていた部分(芽と呼びます)に漆を塗り、隙間を埋めると同時に雫形に模ります。今回は呂色漆を使用しますが、朱漆などでも構いません。芽打ちは毛筆用の筆を使用し、先端を鋭く尖った形になるように塗ることで上に向かった枝の勢いを表現します。これが乾燥したら2回目を行い仕上げます。


左:毛筆用の筆で芽打ちを行います、右:塗り終えた状態。

10月7日(火)飾り塗り−5
(1)芽打ち2回目

続いて2回目の芽打ちを行います。2回目を行う前に1回目の塗面にブツブツなどがあれば耐水ペーパーで取り除いておきます。このとき胴塗りにペーパーが当たらないように注意します。2回目も1回目と同じように行いますが、これで最後になりますので、形が歪んでいれば整えながら丁寧に行っていきます。これで全漆塗りの工程が終了しました。


左:ブツブツを研ぐ、右:2回目の芽打ちが終わり全漆塗りの工程が終了です。

10月9日(木)仕上げ
今朝は5時30分に目が覚めたので、完成まで仕上げてしまいたいと思います。

(1)胴と握りの接着

胴と握りを接着します。接着する前に挿げ込み部分に付いた漆を180番程度の紙ヤスリで磨いて落とします。接着には30分硬化型のエポキシ接着剤を使用します。接着時に挿げ口からはみ出した接着剤はウェスで丁寧に拭き取ります。一度拭き取っても再度中からはみ出してくることがありますので、硬化するまでの間、何回か確認して拭き取りを行います。最低30分、接着剤が硬化するまで放置します。


左:挿げ込み部分に付いた漆を落とします、右:はみ出した接着剤を拭き取ります。

(2)上げ矯め
接着が硬化したら竿全体を見て曲がりが出ている場合は、ここで上げ矯めをもう一度行います。上げ矯めは以前行ったときと同じ要領で行います。この期に及んで厳しい矯めはできません。あくまでも弱火で慎重に行います。

(3)油打ち
指に油を少量取り、竿全体に薄く伸ばしウェスで拭き取りながら磨き上げます。



完成しました。

これで今回の竿製作の全工程が終了となります。7月6日に着手して以来、途中休みの期間もありましたが、ほぼ3ヶ月で4本のワンピースロッドの製作が終了です。やっと完成しました。

完成写真集

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