和竿製作日誌 - 2003年第3期 Vol.4

8月20日(水)胴塗り−1
3日休んでしまいましたが、いよいよ胴塗りに入ります。胴塗りは塗っている時は透明で、乾燥すると茶褐色に変化しますので、塗りムラが後になってから表面化します。また、埃が付いたまま乾燥すると、埃の部分が黒くなって目立ちますので、これからは埃との戦いです。いずれにしても大変気を使う作業になります。まず最初は瀬〆漆の摺り漆(すりうるし)、その後梨地漆の刷毛塗りと胴擦り(どうずり)を2回、最後に生上味漆の摺り漆と磨きを繰り返して仕上げになります。

(1)摺り漆
今日は瀬〆漆の摺り漆を行います。摺り漆は竹の表面に薄い漆の膜を作り、次の梨地漆の食い付きと伸びを良くするための下地になります。
3日空いてしまったので、手を石鹸でよく洗ってからもう一度湯拭きを行います。そしてパソコンショップで売っている埃取り用のほうき(静電気で埃を吸着させるもの)を利用して竹の表面の埃を極力取り除きます。
次に瀬〆漆を指に取り、素手で竹の表面に摺りつけて行きます。竹を左の太ももと手のひらに挟んで回転させて薄く摺り込みます。呂色漆を塗った部分も区別せずに摺り込みます。節など窪みの部分は爪や指先を使って漆を入れます。このとき漆の付け過ぎは拭き残しの原因になりますので禁物です。その後、拭き取り用の紙で元から先に向かって、完全に拭き取ってしまうつもりで、何回か漆を拭き取ります。窪みの部分は漆が残りやすいので念入りに拭き取り、漆が残らないように気を付けます。終わったら室で乾燥させます。


左:摺り込み中、右:拭き取り中。


夜になり室を空けると摺り漆が乾燥していました。

8月21日(木)胴塗り−2
(1)胴塗り1回目

胴塗りにはいくつかの方法があり、概ね「摺り漆」、「手拭き」、「刷毛塗り」に分かれると考えられます。本職の方々は「摺り漆」、「手拭き」で仕上げるのが一般的かと思われますが、私はいつも「刷毛塗り」を行います。「刷毛塗り」は仕上げがムラになりやすく、美しく仕上げるには非常に困難な手法ですが、寿作系の竿師の方々を始め一部の本職の方々が「刷毛塗り」を採用していると聞きます。私は最初に教わったのが「刷毛塗り」だったこともあり、通常この方法で胴塗りを行うようになりました。
今日は胴塗りの1回目を行います。埃は厳禁なので一旦塗りに入ったら立ったり座ったりはできません。必要なものはすべて手が届くところに準備し、尚且つ塗り始めるまで座ったまま静かに埃が静止するのを待ちます。
二重にした濾し紙で梨地漆を2回濾し、片脳油で半々程度に溶きます。竹の先の部分から一節づつ塗り進めますが、刷毛の先端に少量の漆を付けて、塗る面に点々と漆を置き、竹に対して刷毛を斜めに向けて前後にすばやく運び、置いた漆を薄く均等に伸ばします。次に刷毛を竹に対して縦方向に数十回使い、片脳油が若干揮発し刷毛運びが少し重たくなったところで、今度は刷毛を立ててゆっくり仕上げるつもりで漆を均します。これをすべての竹の面に対して行い、最後に竹全体を通して均します。
塗りの最中に塗面に埃が付着した場合は、針や指先を使って即座に取り除きます。また竹の窪みの部分に漆が溜まると仕上がりが醜くなりますので注意しながら行います。


塗り終わった直後の状態です。最初に塗った竹はすでに濃褐色に変化し始めています。1本塗り終えるのに30分以上かかります。


夜、帰宅すると完全に乾いていました。さらに色が濃く変化したのが分かります。

8月24日(日)胴塗り−3
(1)胴摺り1回目

2回目の梨地漆の胴塗りの前に塗面の研ぎを行います(胴摺りといいます)。一般的には墨粉を使用して素手で水研ぎを行います。私のやり方が悪いのかもしれませんが、墨粉で研ぐと1回目の塗りを剥がし過ぎてしまう失敗が多く、部分的に剥がし過ぎて研ぎムラができてしまった場合、それを修正するために全体を剥がすことになってしまいます。また全体を剥がすと言っても、竹の凹部は剥がすことができませんので、次に塗り重ねた場合に凹部だけ漆が厚くなり、見た目が良くありません。
このため私は異なる方法で胴摺りを行います。細目の砥石粉とサラダ油をペースト状に練り合わせ、それを指に取って竹を回転させながら研ぎます。様子を見ながら表面の艶が曇る程度に研いで行きます。回転研ぎの後は縦方向に研いで、節の出っ張った部分の塗りがかすれる程度まで研ぎます。砥石粉の粒子は細かいので、かなり力を入れて研いでも研ぎムラにはなりません。終わったらウェスで拭き取り、油分を残さないように石鹸で洗い流して乾拭きします。


左:砥石粉とサラダ油を練る、右:回転させて研ぐ。

8月26日(火)胴塗り−4
(1)胴塗り2回目

1回目の胴塗りと同じ要領で2回目の梨地漆を塗ります。2回目の塗りで大方仕上がりの良し悪しが決まります。何だか今日は刷毛運びが調子悪くて、4本塗るのに3時間近くも掛かってしまいました。仕上がりに影響が無ければ良いのですが、ちょっと心配です。駄目だったらちょっと濃くなってしまいますが、3回目を塗ることにします。今日は部屋の湿度が低いのかもしれませんが、塗り終わった時点で最初に塗った竹もまだ濃褐色への変化が見られません。今日は反応が遅いようですので、密閉する前に室の湿度を少し加えておこうと思います。本当に日によって違うものです。


2回目が塗り終わった直後の状態です。

8月27日(水)胴塗り−5
(1)胴摺り2回目

1回目と同じ要領で2回目の胴摺りを行います。

(2)摺り漆1回目
続いて1回目の摺り漆を行います。生上味漆と梨地漆を約1対1、それに水を少々加えて混ぜます。水を加えることにより漆に粘りが出て、生上味漆だけで摺り漆をするよりも拭き取り後の塗面に肉を付けることができますので、私は以前からこの方法で行ってます。先代の寿作さんの竿作りの映像を見たときにこの方法でやっていらしたので、試しにやってみたのがきっかけです。
素手で竹全体に先程練り合わせた漆を摺り込み、拭き取り紙で丁寧に拭き取っていきます。摺り込む際に漆を付け過ぎず薄く伸ばすこと、特に節の窪んだ部分に漆が溜まらないようにすること、そして元から先まで止めずに同じスピードで拭き取ることがコツとなります。摺り漆は仕上がりの様子を見て2、3回は行います。この後、口塗りなどが終了し、最終段階での艶上げの摺り漆は生上味漆だけを使用してこれも数回行っていきます。


左:生上味漆、梨地漆、水、右:拭き取り紙で拭き取り。

8月28日(木)胴塗り−6
(1)磨き1回目

1回目の摺り漆を磨きます。ウェスに金属研磨剤のアモールを少量付けて塗面を磨きますが、アモールは艶が出る反面、金属の傷を取るほど研磨性が高いため、力を入れ過ぎないように、あくまでも表面の微細な凸凹を滑らかにするイメージでの磨きを行います。


アモール。

(2)摺り漆2回目
1回目と同じ要領で2回目の摺り漆を行います。これが乾燥後、もう一度摺り漆を行う予定です。
摺り漆はいつも素手で行いますので後が大変です。作業が終わったら手にサラダ油を取り、指と指で揉んで手に付いた漆を溶かし、ウェスで拭き取ります。これを2回くらいやってから爪ブラシを使って石鹸でよく洗います。これでだいぶ落ちますが、爪や指紋に入り込んだ漆は完全に落ちませんし、指の表面は若干ベトつき感が残ってしまいます。手に付いた漆が乾くと黒くなり、かなり汚い状態になりますが、完全に落ちるには何日か掛かります。乾燥後、風呂に入って手がふやけると比較的簡単に落とすことができます。摺り漆を夜に行うと、寝てから無意識に体を触ってしまうので、明け方に痒くて目が覚めることがあります。このため摺り漆はできるだけ朝のうちに行うようにしています。私の場合、手はかぶれたりしませんが、体の皮膚が柔らかい部分は何年やっててもかぶれてしまうことがあります。現在、右の耳が痒いです。


2回目の摺り漆後、だいぶ赤黒く見えますが、数日の内に赤味が抜けて落ち着いた色に変化して行きます。

(3)磨き2回目
夜になり、2回目の摺り漆が完全に乾燥していますので2回目の磨きを行います。方法は1回目と同じです。

(4)摺り漆3回目
3回目の摺り漆を行います。3回目は水を加えずに生上味漆と梨地漆を混ぜ合わせたものを使用します。これが乾燥すればひとまず胴塗りの工程は終了となります。次は呂色漆を塗った糸巻き部分の仕上げに入って行きます。
(夜に摺り漆をやってしまったので、翌朝右の目が痒くなってしまいました。)


3回目の摺り漆が終わりました。

8月31日(日)上塗り
(1)呂色漆の研ぎ

以前、糸巻き部分に呂色漆を塗ったところに胴塗りの梨地漆が被っていますので、改めて800番の耐水ペーパーで水研ぎします。この部分は前に水研ぎ仕上げをしてありますので、上から被った梨地漆を平らにする程度の研ぎで構わず、梨地漆を完全に剥がす必要はありません。研いでみると、梨地漆は削れにくく呂色漆より塗面が硬いことが分かります。この作業を行う際には間違っても胴塗り部分を研がないことです。このため塗り際の研ぎには特に注意を払い、もし縦方向に研ぎたい時には、下の左の写真のように左手の親指を必ず塗り際に添え、ストッパーにして胴塗りをガードします。

(2)呂色漆塗り4回目
ガイド下のラッピング部分は呂色仕上げにしますので、4回目の呂色漆の塗りを行います。この部分はこれが最後の塗りになります。継ぎ部分の口塗りはこの後変わり塗りを施しますので、今回は塗りません。呂色漆を刷毛で縦方向に均す際にもし際から漆がはみ出してしまったら、面棒を使ってきれいに拭き取ります。そのまま乾いてしまうと後で剥がすことはできません。


左:口塗りの縦研ぎ、右:ガイド下の呂色塗り4回目が終了。

9月1日(月)口塗り(変り塗り)−1
継ぎの糸巻き部分に変り塗りを施します。変り塗りは美観のためだけに行うものであり、実用上はまったく意味がありません。しかし、その塗りの手法は漆芸から学ぶものが多く、塗りの種類は数え切れないほど多くが存在します。自分で独自の塗り方を考えるのも竿作りの楽しさでもあり、製作者の個性が出る部分でもあります。
自分の竿を製作する場合は、工程を減らしたかったりでガイド下と同じく呂色仕上げにして、シンプルな塗りにする場合もありますが、今回は山立て、金箔張りを行う研ぎ出し塗りにしてみたいと思います。
和竿で用いられる変り塗りの手法で代表的なものを挙げますと、梨地塗り、津軽塗り、ななこ塗り、金虫食い塗り、呂色虫食い塗り、根来塗り、石目塗り、卵殻塗り、手綱塗り、乾漆塗り、螺鈿(らでん)などなどたくさんあります。

(1)山立て
山立てとは後で塗面を研ぎだした時に模様が浮かび上がるように凹凸を付けた塗りを行うことです。普通に漆を塗っても乾燥する過程で塗面が均一になる性質がありますので、模様がきれいに出るほどの山は立てられません。このため絞漆(しぼうるし)といって山立て用の粘度の高い漆を作ります。絞漆の作り方も用途によって様々で、一般的には漆にゼラチン、卵白、水などを混ぜて練り上げますが、今回は呂色漆に瀬〆漆、糊を混ぜて作ります。呂色漆の場合は黒い模様になりますが、色漆を作ってから絞漆にしても構いません。塗り方も様々ですが、今回はヘチマを水に浸して角切りにし、これに絞漆を付けて塗る方法にしてみます。
定盤の上に絞漆を箆で広げ、ヘチマの一面に漆を付けたら塗面を叩くように乗せて行きます。あまり漆を付け過ぎると中が乾燥するのに時間が掛かり過ぎてしまい、研ぎ出した時の失敗に繋がるので、塗面を光に当ててみて凹凸が多少付いていればOKです。これが終わったら最低1日、乾きが悪いときは1週間ほど置いて次の工程に進みます。


左:乾燥したヘチマ、右:水に浸して柔らかくした後カッターで角切りにします。


左:塗面をヘチマで叩くように塗ります、右:山立て後の状態ですがまだ乾いてません。


9月3日(水)口塗り(変り塗り)−2
2日経って山立てが乾燥したようなので、今日は山立ての上に金箔を貼るところまで進めたいと思います。

(1)山研ぎ1回目
まず、山立て部分の水研ぎを行います。研ぐといっても凸部分の出過ぎた部分だけを研いで、山の高さを揃える程度の研ぎです。研ぎ過ぎると山が無くなり、後で研ぎ出しが出来なくなってしまいますので注意します。1000番の耐水ペーパーで軽く研いで、凸部分だけが艶消しになるようにします。

(2)摺り漆(金箔貼り用)
金箔を貼る接着剤の意味で瀬〆漆で摺り漆を行います。
摺り漆を始める前に漆が付いてはいけない胴塗りの部分にマスキングを行います。マスキングは紙テープで行いますが、テープを剥がした時に胴塗りも一緒に剥げてしまわない様に、テープの粘着度を弱めてからマスキングします。この粘着度を弱める方法が笑われてしまいそうですが、一度自分の顔面にテープを貼ってから、それを剥がして竿に貼ります。顔の油が適度に粘着度を弱めてくれて、自分なりには最良の方法だと考えています。
次に瀬〆漆での摺り漆を行いますが、極少量の漆を山の凹部にまで行き渡らせるように丹念に摺り込みます。摺り込み後は拭き取る必要はなく、そのまま10分〜30分くらい室に入れて半乾き状態にします。


左:山研ぎ後、右:瀬〆漆で接着用の摺り漆。

(3)金箔貼り
貼る面積に合わせて金箔をカッターで切ります。これは目見当で構いません。次に金箔の上に竿を持って行き、ゆっくり竿を回しながら徐々に巻き取るようなイメージで巻き付けていきます。金箔は大変薄く、鼻息だけで飛んだりクシャクシャになってしまいますので、一周巻き終えるまで息は止めたままです。巻き付けた時にしわになったり余分な金箔が端から出ていてもまったく問題はありません。逆に隙間が空いたり、寸法が足りなかった場合は、その部分に別の金箔を足してやります。


左:金箔の巻きつけ中、右:一周巻き終えました。

巻き終えたら、ウェスをタンポ状に丸め、最初はごく軽く叩くようにして金箔を密着させます。徐々に圧力を強めながら押し付けていき、最後はタンポで擦るようにして完全に密着させていきます。この過程ではみ出したりしわになった金箔は自然に取り去られ、金メッキを施したような状態になります。終わったらマスキングテープを注意しながらゆっくりと剥がし、マスキングしてあった際の部分を改めてタンポで圧着します。金箔の内部は水分が届きにくいので、接着用の摺り漆を完全に乾かすため、室には多目の湿度を与えて密閉します。


左:タンポで圧着中、右:金メッキのように出来ました。胴塗りは数日経って赤味がだいぶ抜けてきたのが分かりますでしょうか。

9月5日(金)口塗り(変り塗り)−3
(1)上塗り1回目

1日半経って金箔が完全に接着されたようです。今日は研ぎ出しの地色になる漆を塗り重ねます。2本は梨地漆を塗り金虫食い風の研ぎ出しに、2本は赤漆の研ぎ出しに仕上げようと思います。上塗りは2回行う予定です。
赤漆は木地呂漆(梨地漆でも良い)に色粉を混ぜて作ります。この後に研ぎ出しを行いますので油漆系の朱合漆などは使用しません。漆と色粉の割合は約半々が目安で、漆が多いと乾燥後の発色が悪く色が出ませんし、粉が多すぎると漆が硬くなり、塗りに支障が出ると同時に乾燥後の強度も劣化します。
定盤の上で粉のだまを潰しながら、漆と色粉が完全に馴染むまで箆で20分くらい掛けて練り上げた後、漉し紙で濾します。練りが足りないと、濾したときに色粉が大量に濾し紙の中に残ってしまい、絞っても漆しか出てきません。漆と色粉の割合は目分量で練り方も毎回同じには行きませんので、まったく同じ色漆は二度と作れません。また、色漆を作るのは大変手間が掛かるので、よく使う色漆は多めに作り保存しておきます。
色漆の保存は下の写真の様に皿の上からサランラップをして空気に触れないようにしておき、使用するときだけサランラップを剥がして適量を使用するようにします。この時使用するラップは、全部試したわけではありませんが旭化成のサランラップが良く、他のラップでは中の漆が乾燥してしまい保存が利かないものがありました。


左:保存してあった赤漆、右:2本は梨地漆、2本は赤漆を塗りました。

9月7日(日)口塗り(変り塗り)−4
(1)山研ぎ2回目

梨地漆と赤漆の2種類の研ぎ出しの地色を塗りましたが、2回目を塗る前に軽く研ぎを入れます。ここでの研ぎはまだ模様を研ぎ出さないように、山の凸部だけを均すように艶消し状態にします。


左:1回目の上塗りが乾燥しました、右:山研ぎ後の状態です、ここではまだ研ぎ出しません。

(2)上塗り2回目
続いて研ぎ出しの地色漆の2回目を塗り重ねます。研ぎ出し前の塗りはこれで最後になる予定です。1回目と同じく厚塗りはせずに山の凹部に漆が入るように少量の漆を擦り伸ばすように塗り重ねます。これが乾燥したらいよいよ研ぎ出しを行います。

(3)研ぎ出し
夜になって2回目の上塗りが完全に乾きましたので、いよいよ研ぎ出しを行います。最初に1000番の耐水ペーパーで水研ぎを行います。この時、一部分だけを研がないように全体を満遍なく研ぎ進めるよう注意し、山が削れて模様が少しづつ均等に浮かび上がるように研いで行きます。模様の出方が少し物足りないくらいで止め、次に1500番の耐水ペーパーで仕上げていきます。もし研ぎ過ぎて上塗りが完全に剥げて地が出てしまったら修復できませんので、一回全部剥がして山立てからやり直しとなります。こうなるとここ数日の工程が無駄になってしまうので、急がず慎重に行わなければなりません。今回は何とか失敗せずに研ぎ出しが終わりホッとしました。この後、摺り漆と磨きを数回やって艶上げを行っていきます。ここまで来ると塗りの難しい工程も終えてだいぶ終盤戦です。


左:研ぎ出し中、右:研ぎ出しが終わり模様がイメージ通りに浮かび上がりました。まだ研いだままですので艶消しの状態です。

9月9日(火)塗り仕上げ−1
(1)呂色漆研ぎ4回目

ガイド下ラッピング部分の4回目の呂色漆を1500番の耐水ペーパーで水研ぎします。3回目に塗った呂色漆を露出させないよう注意しながら全体が艶消しになるように研ぎます。

(2)摺り漆4回目
生上味漆で竿全体に摺り漆を行います。この摺り漆は拭き残しが無いように完全に拭き取るくらいのつもりで行います。ガイド下と口塗りの部分は1500番の耐水ペーパーで研がれて艶消しになっていますので、ペーパーによる細かい傷が生上味漆で埋められて、後で磨いたときに艶が出るようになります。このような仕上げ方法を呂色仕上げと言います。磨きは摺り漆が半乾きの状態で行うと最も簡単に仕上げることができるのですが、今日は時間が無いので完全に乾いた後の磨きになってしまいます。ちなみに半乾きの状態は塗面に息を掛けて見極めます。息をハッと掛けて塗面が曇らなければまだです。乾いていると塗面が白く曇ります。そして半乾きの状態は青息と言って、掛けた息が青っぽく曇ることで見極めることができます。この状態で磨きを行えば最も簡単に仕上げることができます。この後、磨き・摺り漆・磨きを繰り返して仕上げていきます。


左:ガイド下の4回目の呂色漆を1500番のペーパーで研いだ状態、右:4回目の摺り漆後。

(3)磨き1回目
今朝、摺り漆を施しましたので磨きを行います。1回目の磨きは極細目のコンパウンドを使用します。コンパウンドは用途によって目の細かさが異なりますが、私は下の写真のようにタミヤのプラモデル用のコンパウンドを愛用しています。ウェスにコンパウンドを適量取り、前回行った摺り漆だけを磨き取るようなイメージで磨きを行います。この磨きで1500番のペーパーで磨いた部分は艶が出てきます。


左:愛用のタミヤのコンパウンド、右:ウェスを使って磨きます。

(4)摺り漆5回目
4回目と同じように生上味漆で竿全体に摺り漆を行います。ここでも漆の拭き残しが無いように完全に拭き取るくらいのつもりで行います。


左:1回目の磨き後の状態、右:5回目の摺り漆を乾燥させます。

9月10日(水)塗り仕上げ−2
(1)磨き2回目

竿全体を磨いて最後の艶上げを行います。磨き方も様々ありますが、私の場合、最後の磨きには白色顔料のチタニウムホワイトにサラダ油を少々付けながら、素手で磨きを行います。チタニウムホワイトは極細のコンパウンドよりもさらに細かい磨き粉と言うことができます。最後にウェスで磨きながら完全に油分を取り除いて終了です。


左:チタニウムホワイトとサラダ油、右:素手で磨きます。


磨きによる艶上げが終わりました。写真ですと前回との差が分かりにくいですね。

9月11日(木)塗り仕上げ−3
(1)上げ矯め

胴塗り、口塗りが終了し、この後、ガイドやリールシートの装着に入る訳ですが、中矯め後の漆塗り工程で室の出し入れを繰り返したため、元の曲がり癖が多少出てきたり、矯めに誤差が生じていますので、この時点で再矯正しておきます。もしここで誤差が生じていなければ、以前行った矯めが完全であったことになりますが、なかなか理想通りには行かないのが現実です。
既に胴塗りが終わっていますので、ここでの矯めはかなり神経を使う作業になります。漆が塗られた竹は、塗る前と比べて熱が内部に閉じ込められるため、容易に火が入ってしまいますし、簡単に焦げてしまいます。また、漆が厚い部分に強火を当てるとブツブツの水脹れとなり、胴塗りが台無しになってしまいます。このため火の加減は極細に調整しなければなりません。また、矯め木を胴塗りに直接当てると、傷が付いたり塗りが剥げてしまう場合がありますので、矯め木には柔らかい布を巻いて、直接竹に当てないようにします。矯め方も滑らすような「こき矯め」は行わず、矯正する部分を軽く押しながらのデリケートな矯め方になります。上げ矯めは一歩間違えると大変なことになりますので、かなり緊張する作業です。


左:弱火で慎重に火を入れます、右:矯め木には布を巻いて軽く押すような矯め方になります。

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