和竿製作日誌 - 2003年第3期 Vol.1

2003年第3期の和竿製作を始めます。
今年はあとカワハギ竿1本(丸節全竹もの)とシロギス竿4本製作の予定ですが、カワハギ竿は急がないので後回し。次はシロギス竿4本の同時製作に入ります。4本のシロギス竿はいずれも丸節竹のワンピースロッドで、長さは依頼主によって1.6m〜1.7mの間です。普段は同時に3本までしか作りませんが、今回は全部ワンピースなので4本までなら行けるでしょう。
今回は「和竿製作日誌」と題して、私の和竿製作の様子を制作方法を交えて随時レポートしてみたいと思います。

7月6日(日)素材選定
前回のカワハギ竿3本の製作が終わったので、しばらく休んでいましたが、そろそろ次の製作に入ろうと思います。
丸節竹は細物〜太物、テーパーの緩急、在庫がけっこうありますが、その中から太さや張り、節間などシロギス竿に向いている原竹を選びます。急テーパーの竹は極先調子の竿には使用できますが、今回、竿の調子は私に任されているので、錘負荷10〜15号、軽くて気持ち良く胴に乗る竿を作るつもり、スローテーパーで穂持ちの節間があまり詰まっていない竹をセレクトします。
握りは孟宗竹の根掘りを使用しますが、こちらが在庫薄。しかも細物が特に少ない。近年なかなか採れなくなってしまったので貴重品です。このまま行くと来年あたり在庫切れになるかも・・・かなり不安です。
というわけでセレクトした丸節竹4本と孟宗竹4本です。いずれも取ってきてから何年か経っていますが、青竹のうちに芽取り、竹洗い、油抜き、荒矯めを行い、陰干しして保存してあったものです。この状態にするまで、すでに大変な手間が掛かってます。



上4本は握り用の孟宗竹の根掘り、下4本は丸節竹。

7月8日(火)寸法決め〜火入れ&矯め
(1)寸法決め
今回の竿は、握り(孟宗竹)、胴(丸節竹)、穂先(グラスソリッド)の3つのパーツを繋いで作成します。仕上がり寸法に合わせて、4本分それぞれの竹をどこからどの節まで使用するか竹尺(ものさし)を使って寸法決めを行います。接合部分の込み寸法も計算に入れて鉛筆で竹に印を付けて行きます。この時点で使用する部分を切り出してしまうと、火入れの際に持つ部分や矯め木を掛ける部分がなくなってしまいますので、余分な部分を残したまま火入れを行います。

(2)火入れ&矯め(孟宗竹)
今日は出勤前で時間があまり無いので、まずは握りの孟宗竹に火を入れて矯めを行います。「火入れ」は竹全体に満遍なく火を通すこと、「矯め」は火入れで柔らかくした竹を矯め木を使って真っ直ぐに矯正することです。
本来は備長炭を使用し、強い火力と遠赤外線で素早く竹の中まで火を通すのがベストと言われていますが、私は本職ではありませんので、市販の火入れ用ガスコンロを使用しています。竹を元のほうから少しずつ火を入れては矯めて行き、矯め終わった部分は濡れ雑巾で冷やして硬化させながら進めていきます。


握りの火入れと矯め。

7月9日(水)火入れ&矯め〜切り組み
(1)火入れ&矯め(丸節竹)
昨日の続きで今日は竿の胴になる丸節竹の火入れを行います。丸節竹や矢竹のような女竹(めだけ)に属する断面の丸い竹は、布袋竹や孟宗竹のような男竹(おだけ)と少し矯め方が異なり、矯め木を掛けて押して滑らすようにして矯正する「こき矯め」という方法を多用します。4本の丸節竹の火入れと矯めが終わり、昨日の孟宗竹と合わせて火入れ&矯めの工程が完了しました。

(2)切り組み
続いて切り組みを行います。穂先は長さ60cm、元径5mm、先系0.8mmのグラスソリッドを使用しますが、接合部の竹の太さやグラスから竹への調子の乗り方を見て、60cmそのまま使用する場合と多少切り詰めて使用する場合があります。また握りの孟宗竹はリールシートを装着する位置を決めたら、基本的にはその一つ上の節で胴の竹を繋ぐように設計します。そして全体を繋いだときに目的の竿の長さになるように、接合部の込み寸法など計算に入れて竹を切り組みます。丸節竹の元の部分は後で微調整が利くように少し余裕を持たせて切り落とします。


切り組まれた4本の孟宗竹と丸節竹。

7月10日(木)素地仕上げ−1
さて、削ったり磨いたりの工程に入ります。素地磨きは後々の漆塗りの仕上がりを大きく左右する重要な工程です。特に木賊(とくさ)磨きは素地に艶を与え、後に生漆(きうるし)を刷り込んだ時に染み込み過ぎを押さえ、ヤスリを当てた部分だけが黒ずんでしまうのを防いでくれます。

(1)根落し
今日は握りの根っこの部分を奇麗にします。まず、切り出し刀で根を削ぎ落とします。このとき、切れない刃物でやると根の一本一本が付け根からポロポロ取れて、穴が空いてしまうので仕上がりが美しくなりません。切れる刃物で、刃の角度を少し斜めにして少しずつ切り落としていきます。あまり削りすぎてしまうと根の丸い模様が無くなり、中の柔らかい組織が出てきてしまうので、これまた美しくありません。多少溝が残っているくらいでも構わないので全体に形を整えていきます。大体削ぎ終えたところで、今度は150番〜180番くらいの紙ヤスリで表面を滑らかにしていきます。本当の磨き込みは後でやりますので、この時点ではこのくらいでOKです。最近削り仕事やってなかったので、両手の親指に軽く豆が出来てしまいました。


左:根落とし中、右:仮磨きを終えた孟宗竹の根っこ。

7月12日(土)素地仕上げ−2
(1)袴取り(丸節竹)
丸節竹のような女竹(めだけ)に属する竹は、成長過程で枝が生えてくる前に、あたかも身を守るかのように節毎に皮が生えています。竹が成長し枝が生えてくると、自然にその皮は剥け落ちてしまいます。竿用に採取する2〜3年物でも各節の部分に、そのなごり(袴といいます)が残っていますので、これを切り出し刀で切り取ります。刃を垂直に当て、本体に傷を付けないよう竹を一回転させて切り取っていきます。

(2)芽削り(丸節竹)
各節の枝が生えていた部分(芽といいます)を切り出し刀で丁寧に削り、その後平ヤスリで滑らかにします。指で竹を逆撫でした時に引っかからないように芽の先端を丸く削ります。


左:袴取り、右:芽削り。

(3)素地磨き(丸節竹)
芽と節周りの部分を木賊(とくさ)で艶が出るまで磨き込みます。このとき木賊を竹に対して少し斜めに角度をつけて磨き、表皮を削らないよう、節周りの凹凸の尖った部分だけを削り、滑らかになるように磨きます。


左:乾燥した木賊(とくさ)、右:これを唾液で湿らせ柔らかくして研磨に使用します。

(4)素地磨き(孟宗竹)
握りの孟宗竹は多少使い古した紙ヤスリで、これも表皮を削らないよう、ヤスリの目が節の凸部だけに当たるように、手のひらで少し筒状に曲げて持ち、均等に磨いていきます。このとき使う紙ヤスリは240番がベストで、耐水ペーパーはダメです。紙ヤスリが新しい場合は、要らない竹を磨いたり、ヤスリ同士で擦ったりして、表皮に傷が付かないようわざとヤスリの目を落としてから使います。根っこは以前の工程でほとんど整形してありますが、ここでさらに先程の240番の紙ヤスリでさらに滑らかに丸く削ります。その後、丸節と同じく木賊を使ってヤスった部分に艶が出るまで磨き込みます。


使い古しの240番の紙ヤスリで握りの節磨き。


4本の丸節竹と孟宗竹の素地磨きが終了しました。

7月13日(日)ガイドとリールシートの位置決め〜焼き印入れ
今日は釣りに行く予定でしたが、天候悪く中止。4本の竿に使用するガイドとリールシートを調達しに出かけました。時間があるので慎重にガイドとリールシートの位置決めを行います。できれば継ぎの直前まで進めたいと思います。

(1)ガイドの位置決め
私の場合、胴にガイドを付ける際はダブルラッピング方式にします。ダブルラッピングとは、竹にガイドを直接付けるのではなく、ガイド設置部分に予め糸巻きを施し、漆で呂色仕上げ(*1)を行い、その上からガイドを設置する方法です。胴の竹に直接金属部分を触れさせないことにより、竹が曲がり込んだ時の強度の向上、およびガイドの安定性を高めるものです。また、見た目が重厚な感じに仕上がることも、この方法を採用する理由の一つです。
従ってガイド設置予定の位置に糸巻きを施す都合上、胴塗りを行う前に、竹やグラスの接合部など他の糸巻き部分と同時進行で作業を進める必要があり、この時点でガイドの位置を確定します。

(*1)呂色(蝋色)仕上げ : 漆の仕上げ方法の一つ。呂色漆で仕上げ塗りをした後、蝋色炭で表面を研磨。艶上げに生上味(きじょうみ)漆で摺り漆を行い、半乾き状態で角粉(鹿の角の内部から採取した石灰質の粉)を用いて素手で磨き込む仕上げ方法。私は蝋色炭の代わりに2000番の耐水ペーパーを、角粉の代わりにチタニウムホワイトを使用しています。


左:穂先用のLSGガイド、右:YSGガイド。

私が使用するガイドは富士工業のSICガイドです。今回は依頼者によるガイドの指定は無く、仕様は私に任されていますので、胴の部分にYSGシリーズ(足高で口径が大きいスピニング用のガイド)、穂先部分にはLSGシリーズ(MKSGの軽量化版)を使用します。一番手元に近いガイドはYSGの口径20mm、穂先の先端はトップガイドではなくLSGの4mmを使用します。トップガイドを使用しない理由は、トップガイドは最低でも5mmまでしか販売されておらず、シロギス竿には少し口径が大き過ぎるためです。穂先の幾つかのガイドを4mmのもので制作した場合と5mmのもので制作した場合では、明らかに感度に差が出ます。また、実釣でラインが穂先に絡んでトラブルを引き起こすのは、トップガイドではなく2番以降のガイドに絡んだケースがほとんどなので、先端に通常のLSGガイドを使用しても経験上まったく支障がありません。
手元に近いガイドから先端のガイドまで徐々に口径を狭めていくことで、キャストする際にガイドを通過するラインのブレが減少し、軽いキャストでも飛距離を稼ぐことができます。手元に一番近いガイドの位置は、使用するスピニングリールが1500番〜2500番の場合、経験上ではリールシートの中心から55cm〜60cmがベストな配置となります。
上記の点を考慮し、ガイドを紙テープで仮止めして位置を確定させます。確定したらその位置に印を付けておきます。

(2)リールシートの位置決め
次にリールシートの位置ですが、市販の竿では実釣で竿掛けに掛けたり、竿尻を肘に当てたりすることを考慮して、リールシートの位置を竿尻から20〜30cmと少し長めに取ってある物が多く見られますが、今回の依頼者の方々は、ペンシルホールドといってスピニングリールの足の後ろを親指と人差し指の間の又に掛け、鉛筆を持つようなスタイルで竿を持つ方々ばかりで、竿掛けも使用しないので、意図的に竿尻を短く設計します。竿尻を短くすることに伴い、握り竹の長さを短く設計することが可能となり、同じ寸法の竿でも穂先のグラスソリッドから胴の竹を長く使用することができます。これによりワンランク短い竿でもリールから穂先までの有効長を長く取ることができますので、短竿でありながら実釣では機能的に良好な竿となります。デメリットは船べりの竿立て用の穴に竿を立てた時に安定しないことでしょうか。


左:YSGガイドを紙テープで仮止めして位置を確定、右:リールシートを紙テープで仮止めして位置を確定。

(3)焼き印入れ
リールシートの位置が決まったら、握り竹に焼き印を押せる場所を探します。あまりに節が詰まっている竹の場合は、焼き印が押せない場合があります。私の焼き印は1×2cmと大きいので場所を取りますし、竹の表面は湾曲して平らではありませんので、印を押すのはかなり難しい作業となります。二度押しできませんし、失敗することも多いので緊張する作業です。本当はもっと小さな印が欲しいのですが、なかなか高価でもありますし、今のところ手に入れることができていません。焼き印は本来竿が完成してから押すものかもしれませんが、上記のように私の印は大きいので、後から押すと漆が焼けて醜い仕上がりになってしまいます。このため漆塗りの前に印を押しておきます。


焼印を押した握り竹、何とか成功。

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