和竿製作日誌 - 2003年第3期 Vol.2

7月15日(火)継ぎ−1
(1)戸口殺し
握り竹の戸口殺し(こぐちごろし)を行います。竹を切断した状態では断面が楕円形になっているものがあります。これを丸く矯正するために戸口に火を入れ、殺し板の穴に押し込みます。火を入れる前には入らない穴でも、火を入れると竹が柔らかくなり入るようになります。この作業は断面を丸くすると同時に、竹を圧縮して繊維を強化する意味もあります。


左:戸口の火入れ、右:戸口殺し。


左:殺し前、右:殺し後。

(2)穂先継ぎ
穂先のグラスソリッドと竹の継ぎを行います。竹の穂先を継がれる部分は割れを防止するために絹糸で仮巻きをします。これは後で解いてしまうので糸に隙間があっても構いません。竹の内部は棒ヤスリで削ります。グラスソリッドの込み部分は、グラスソリッドを台の上で回しながら平ヤスリで削ります。このときグラスの削ってはいけない部分に紙テープを貼ってヤスリの刃が当たらないようにガードします。グラスの込み部分はテーパーが付くように削りますが、込みの先端部分は竹の自然の穴の径に合うくらいまで細くし先を丸くします。戸口に当たる部分は段差が付かないように自然なテーパーになるように削らなければなりません。竹の内部とグラスソリッドを交互にバランスを取りながら削っていき、最終的にピッタリ繋がるように仕上げます。


左:絹糸で仮巻き、右:グラスソリッドの込み部分を削る。


左:竹の内部を削る、右:半分程度入る状態。


ピッタリ収まるようにできました。とりあえず一本終了。

7月16日(水)継ぎ−2
(1)穂先継ぎ(昨日の続き)
昨日の続きで残り3本の穂先の継ぎを行い、4本の穂先の継ぎが出来ました。

(2)戸口切り
握り竹の戸口を切り揃えます。切ると言ってもかなり正確に切ってありますので、戸口を平ヤスリで平らに揃える程度の作業です。戸口が揃うと竹を立てることが出来ます。


左:穂先を仮継ぎした状態、右:戸口が揃うと竹が立ちます。

(3)握り継ぎ
握り竹と胴の竹の継ぎを行います。穂先の継ぎと似たような要領で、握り竹の胴が継がれる部分を絹糸で仮巻きして割れを防止します。胴の竹の込み部分は平ヤスリで竹を回転させながら、一箇所だけ多く削ることの無いよう注意しながら削ります。込み部分の仕上げは180番くらいの紙ヤスリを使用し、左手の手のひらと太ももの間に竹を挟み、前後に高速に回転させながら、右手で紙ヤスリを当てます。挿げ込みの内部は径に合った棒ヤスリで中をさらいます。このとき戸口だけ削り過ぎないように注意します。これらの作業を何回か繰り返してピッタリ収まるようにします。


左:仮巻きした握り竹、右:込み部分の平ヤスリ掛け。


左:込み部分の紙ヤスリ掛け、右:挿げ込み内の棒ヤスリ掛け。


4本の仮継ぎまでが出来ました。

7月17日(木)巻き下−1
仮継ぎまでできたので、次に糸巻き部分の下処理を行います。継ぎ部の糸を巻く部分は竹の表皮を剥がしますが、これは後で糸を巻くときに滑らなくするためと、漆で糸を固めたときに竹の地と糸の食いつきを良くするために必要な工程です。

(1)罫引き(けびき)
皮を剥がす場所の境界線に印を付けるため、先の尖った刃物で軽く傷を付けます。本来は罫引きという道具を使用しますが、私はこの道具を自作しようと思いつつ今まで作らずに来てしまいました。このため切り出し刀で竹に一周り線(傷)を入れる方法で行っています。

(2)キシャギ
罫引きで印した境界線から先端までの間を、キシャギという両刃のついた道具で竹の表皮だけを剥がします。(この動作を「きしゃぐ」といいます。)キシャギの刃を竹に垂直に当てて、先端に向かって押し出すようにして皮を剥きます。キシャギに両刃が付いているのは、利き手で持って押す方向と引く方向どちらでも使用可能にするためですので、切り出し刀できしゃいでも問題ありません。私はたまたま彫金用のキシャギを使用しています。


左:罫引きは切り出し刀で代用、右:キシャギ。

(3)巻き下の整形(丸節竹)
穂先を継いだときの段差を減らすために、平ヤスリで少しテーパーが付くように削ります。但し削りすぎは強度劣化につながりますので、あくまでも強度が落ちない範囲での削り込みに留めます。最後に180番程度の紙ヤスリで滑らかに仕上げます。このとき、紙ヤスリは竹に対して縦方向に当てずに、前にも行ったように竹を回転させて磨きます。


左:巻き下の整形、右:巻き下の完成。

7月18日(金)巻き下〜糸巻き
昨日の続きで、握り竹の巻き下を整形します。時間があれば糸巻きの作業に少し入っておこうと思います。

(1)錆び付け(さびつけ)
布袋竹、孟宗竹のような男竹(おだけ)に属する竹は、枝が生えている側が溝になっている場合があります。この部分に直接糸を巻くと、隙間ができてしまい強度や耐久性に問題があります。このため錆び付けと言って、隙間を埋める作業をします。パテとなる錆は、通常は生漆に糊と砥の粉を混ぜて練り合わせて作りますが、乾燥時間が掛かることや乾燥したときに痩せることがありますので、私の場合は木工用のエポキシパテ(30分硬化型)を使用しています。実用上はこの方法で問題が起きたことはありません。硬化してからヤスリで整形しますので、少し多めに盛り付けておきます。


竹のくぼんだ部分に施した錆び付け。

(2)巻き下の整形(孟宗竹)
省略しましたが、握りの巻き下も穂先の継ぎ部分と同じく、罫引き、キシャギを行い竹の皮を剥がしておきます。そして胴を継いだときの段差を減らすために、平ヤスリでテーパーを付けるように削ります。錆び付けを行った場所も滑らかになるように仕上げます(錆び砥ぎ)。前にも行いましたが、最後に紙ヤスリで竹を回転させて磨き、同時に戸口の角を面取りしておきます。これで巻き下の作業は終了です。


左:整形された握り竹、右:面取りを行った戸口。

(3)糸巻き−1
継ぎ部とガイド下(ダブルラッピングする部分)に糸を巻きます。糸のズレや隙間を無くすよう、基本的には細い方から太い方に向かって巻き進めます。糸は絹糸の50番で、色は私の場合は赤や白を好んで使用します。黒などの濃い色は、後で漆を染み込ませた時に、染み具合が目で分りにくいので使用しません。本職の竿師の方が赤を使われるのをよく目にします。これは「東作塗り」と言って、赤糸の上に透き漆を塗り重ねて仕上げ、年月の経過に伴い漆が透けてきたときに、地の赤色が浮かび上がってくるという、昔から行われている洒落た塗り方に由来していると聞いています。


左:糸巻き中、右:穂先の継ぎ部分の糸巻きが出来ました。

7月23日(水)糸巻き−2
竿作り4日休んでしまいましたが、再開です。前回の糸巻きの続きが終わりました。漆を出すまであと数日です。


継ぎ部とガイド下の糸巻きが終わり、少し竿の雰囲気が出てきました。

7月24日(木)穂先調整・接着〜穂先ガイド仮付け
(1)穂先の調整
穂先のグラスソリッドはそのままで十分シロギス竿に使用できるものですが、実際に竹に繋いだ時のグラスから竹への調子の乗り方の微調整と、穂先部分の「跳ね」を少し抑えるために、調整の意味でグラスを削ります。グラスソリッドの元をドリルのチャックに装着します。耐水ペーパー180番を二つ折りにし、水を付けてグラスを挟み、ドリルを回転させながら上下に耐水ペーパーをスライドさせて削っていきます。穂先の細い部分は強く挟んで回転させると、ねじれたり折れたりしますので強く挟まないようにします。一箇所だけ削り過ぎないように軽く挟んで少しづつ何回も削って行きます。途中で竹に繋いで調子を確認しながら進めます。最後に400番の耐水ペーパーで表面をならします。


左:グラスソリッドはドリルを回転させて削ります、右:竹に繋いで調子を確認します。

(2)穂先の接着
穂先を接着します。実際に接着する前に、はみ出した接着剤が糸巻き部分に付かないように紙テープでマスキングします。次にどの向きで接着するか、真っ直ぐに最適な継ぎになる向きを探してペンで印しを付けます。接着剤は2液性のエポキシ接着剤を使用します。挿げ込み部分に接着剤を満遍なく塗布し、先ほど付けた印が合うようにきっちり押し込んで接着します。はみ出した接着剤はすぐに拭き取っておきます。


左:接着中、右:4本の穂先の接着が終わりました。

(3)穂先ガイドの仮付け
一般的には漆塗りが終了して胴のガイドを付けるときに穂先のガイドも付けますが、今回の竿は穂先を絹糸で螺旋巻きにして、一回の糸巻きでグラスの元から先までのすべてのガイドを取り付けますので、この時点で穂先のガイドは取り付けてしまいます。グラスのどの位置にガイドを付けるか、予めペンで印を付けておきます。次にゴムなどを接着する黄色いボンドをガイドの足に少量付けて、グラスの元と先の2箇所のガイドを先に接着し、取り付ける向きを確定させます。続いて元から先に順番に全てのガイドを印を付けた位置に取り付けていきます。全て終ったら真っ直ぐになるように、指で上下左右にずらして位置を微調整します。接着剤が乾燥するまで最低1日放置します。私の場合は穂先のグラス部分にLSG−8〜4を10〜11個取り付けます。


ガイドにボンドを付けて一個づつ仮付けしていきます。

7月25日(金)穂先糸巻き−1
穂先ガイドの仮付けが終了しましたので、糸巻きを行います。穂先の付け根から先端までを螺旋状に一回で巻いてしまいますが、ガイド装着部分はガイドを固定するため密に巻き、その他の部分は1〜2mmの隙間を等間隔に空けながら巻き進めます。シロギス竿やヘチ竿など細いグラスソリッドを螺旋巻きにする際、あまり糸にテンションを掛け過ぎると、糸の収縮の反発力で巻き終わった後に穂先がねじれてしまいますので、注意が必要です。今日は時間が無く2本分しかできませんでした。

7月29日(火)穂先糸巻き−2
週末は釣りに行くことが多いので、なかなか作業が進みません。今日は久しぶりに穂先の糸巻きの続きを行います。2本巻いて、都合4本分が終わりました。いよいよ次は漆を使った工程に入ります。漆に入りますと埃を嫌いますので、次に進む前に部屋を片付けて雑巾がけをしなければなりません。かなり散らかっているので、実はこれが大変です。本職の方は工作部屋と塗り部屋を分けている方もいらっしゃいますが、私はそこまでできません。部屋の埃を完全に除去することはできませんが、掃除をして埃を落ち着かせるだけでも作業の質に差が出ます。


左:穂先の螺旋巻き中、右:4本の穂先のガイド付けと螺旋巻きが終了しました。

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